![]() |
佐々木中のエントリついでに、「書くこと」についての本をもう一冊。
僕は書いて生きているわけではないけれど、仕事をしていても、遊んでいても、メールしていても、
何かを書かずには生きていられないし、言葉を自分から発する機会は必ずあります。
僕がこの本を手に取ったときは、仕事上の後輩の指導や部署のまとめ方について悩んでいたもので、
どうすればもっと自分の言いたいことを、(完全に伝えられなくても)今よりもっと伝えることができて、
的確に動いてくれて、もっと効率よく部署を回せるだろうか、というところから読み始めました。
書いて生きていくわけでもない人にとっても、エッセンスを読み取ればとても役立つ実用書だと思うのです。
佐々木中の「切り取れ、あの祈る手を」が物書きのための精神論とすれば、
こちらの上坂徹「書いて生きていくプロ文章論」は物書きのための技術論です。
どちらも何かを伝えていくこと、書くことについて、重要なことをそれぞれの視点で指摘していて、
自分の書いたものが世の中に多く溢れてしまっている「不必要な情報」の一つにならないために考えなければならないことを書いてくれています。
本書前半は、誰に向かって書く文章なのか、何のために書く文章なのか、何を伝えたいか整理できているか、
書いているときに、見失いがちな基本的な注意点が具体的な例を交えながら記しています。
多くの注意点は、総じて「相手」を意識しているかというところに集約されるように思います。
全く自分のことを知らないし、自分の見ている景色を見ているわけではない他者に対して伝えるのに、
ただ「綺麗な人に会った」とか「おいしいパンを食べた」というひとつ形容詞を使っただけの表現では伝わらなかったり、
自分の書きたいことを書き連ねてしまって、本当に伝えたかったはずのことが相手に結局伝わらない文章になってしまったり、
と、そうならないための警句を分かりやすく提言しています。
後半は、ライターとしての仕事術、インタビューをはじめとする書く人の基本的な技術がより具体的に書かれています。
個人的には前半よりも此方の内容のほうが興味深く、こちらもライターの仕事術といっても一般の多くの仕事に通じている部分も多く、
一つの道のプロに生きている人が分かりやすく自分の仕事術について記述しているのだから、参考に出来る部分は多くあると感じました。
広告の仕事からライターになる人はどれくらいいるのか分からないけれど、著者もその一人のようで、
特に求人広告の類になると、スペースが限られている上に、同じような他社の広告がいくつも同じような言葉で並べられている、
といったなかで読ませて内容を確実に伝えることが要求されます。
ウェブサイトを運営していると、必ず検索エンジン最適化の技術が必要になってきますが、
その際もページ内に伝えたいことは一つにまとめる、といったことや、タイトルのつけ方ひとつで閲覧者数が全く変わる、
といったことは多くの人が経験していて、広く言われていることだと思います。
以前そういった仕事にも関わっていたので、上記のことの難しさも良く分かる一方、私自身もとてもいい文章の練習になったと思います。
本格的に物を書くわけではなくても、必ず書く機会は出てくるし、どうせ書いて伝えるなら、より多くの人に分かりやすく簡単に伝えられるほうがいい。
それを仕事にするなら、「書くこと」だけでなく、気を配るべきことが他にもたくさんあるし、それができていない人が書く文章は、たぶんつまらない。
本書の文体はとても読みやすく簡単な言葉で書かれいて、プロの余裕が感じられました。
無理に難しい言葉を使わないで、広く分かりやすく伝えられる自分の言葉を書いていけるよう、
いつも書いている文章を、時々見直してみたいと思います。