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LIFE | yuki ota

ケアの社会学 

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ケアの社会学――当事者主権の福祉社会へ

先週、東京大学にて「ケアの社会学 書評セッション」として、
「ケアの社会学」の著者、上野千鶴子先生を交えた公開ゼミが催されていたので、行ってみました。

「ケアの社会学」は最近発刊された上野千鶴子の最新の著書。
以前「おひとりさまの老後」が話題になっていましたが、その当時から「季刊at」への同名のタイトルでの連載寄稿を行っていました。

大学で、NPOやボランティアの研究をしていたこともあったので、当時からずっと近しいテーマでされていることを気にしていて、せっかくなので今回ようやくその大著が発刊されたとのことで再度読み返し、今回参加してみました。

そして、その内容はとても面白いものでした。

上野は「家父長制と資本制」の結びで、

“なぜ人間の生命を産み育て、その死をみとるという労働(再生産労働)が、その他のすべての労働の下位におかれるのか”

という大きな問いを投げかけています。

この問いは非常にその後の上野の研究において重要なテーマとなるとともに、フェミニズム研究の第一人者が、介護・ケアといった領域へ関心を傾けたのは、この問いからくるものだったことがわかります。

ケアの社会学では、「ケアとは何か、誰が担うのか」という問いを大きなテーマとし、それに対する回答を緻密な調査と理論で導いています。
そして、上野の関心は「官・民・私・協」と4つのセクターとしてのケアの担い手を分けたときの「協セクター」に向かう。

私は、今回のゼミの議論の中でとりわけ、「なぜ協セクターに着目したのか?」という点と、実際に現場で携わっている方との話からの「ケア労働の質の尺度とは何か?」
という点について、非常に関心を持ったので、以下その話についての雑感になります。

現在の日本のNPOをはじめとした協セクターは、法律が制定されてからそれほど日が経っておらず、小さな諸団体は多く設立されているものの、米国等に比べたときに、その規模はまだまだ小さく与える影響も小さなものだと思います。。

また従来からあるような生協やワーカーズコレクティブなどの団体が、先進的で今後発展していくべきセクターだとも正直思えないところがあります。

一方でソーシャルな活動を実践する若い集団、社会起業家と呼ばれる人達が民でも官でもない新しいやり方で、国や制度が追い付いていない部分に柔軟に対応しながら活躍をされている事例はいくつも見られるかと思います。

病児保育のNPO法人フローレンス、バングラディッシュのジュート生地を使った鞄を製作するマザーハウス、子育て世代の父親支援のファザーリングジャパン、大手出版では出さない良質な本を次々と出すミシマ社など。

分野はばらばらに出していますが、私自身普通に生活しているだけでも、こうした起業家たちの活躍を目にすることが多く、同時にこうした方々への期待、自分も何かしたいという気持ちが自然と芽生えてくるのが分かります。

そういった点では、上野さんのいう協セクターというのは、官でも民でも私でもない、こうした新しい分野のことを指しているのではないかと感じています。従来からある既存の協セクターではなく、新しい協セクターを築くことで、制度や国の欠点・不足を解消する。上野さんご自身でもNPO法人WANを立ち上げられ、精力的に活動を行っていることもあり、こうしたセクターへの期待というを大きく持たれているのではないかと感じました。

 

二つ目の「ケア労働の質の尺度は何か」という点においては、介護労働者の働きをどう評価するのかという問題につながることになります。

介護労働者の賃金の低さなどは、一般にもよく知られた問題であるかと思います。

一方でマネジメント人材の不足やそもそもの現場レベルでの人員不足により、充分な教育体制が敷けない、キャリアプランが立てられない、結果人事評価もあいまいになり、正当な評価のされないまま、低賃金で働き続ける、あるいは離脱するという状況が少なからずあるのだと思います。

事業所における介護労働実態調査の調査によれば、

「キャリアに応じた給与体系を整備している 」という回答が  32.5%   ⇒7割が整備していない
「職員の仕事内容と必要な能力などを明示している」      17.7%
「新人の指導担当・アドバイザーを置いている」         21.2%
「職場環境を整えている(休憩室・談話室・出社時に座れる席の確保等)」 26.5%

とあり、決して整った教育・労働環境があるとは言えない結果となっています。

今後、いかにこうしたキャリアの明確化を行うかというところでは厚労省も取り組んでいる部分かと思います。

一方で制度上の問題だけでなく、実践として現場レベルでの改善が求められる要素が大きいところではあるかと思います。

面倒ではあるかと思いますが、一つ一つの介護技術を評価対象として組み入れる、といったことはもちろん、「本当によいケアとは何か」を検討して、そのよいケアを目指してキャリアを重ねられるように制度を整えることが求められます。

その際に、では「ケアの質」はどのようにして計ればよいのか、といったことが問題として挙がってくるかと思います。例えば、サービス業であれば顧客満足度のようなものになるのかもしれませんが、ではその顧客とは誰か。

介護される本人なのか、その家族なのか。被介護者のニーズと家族のニーズが異なるケースもある。

このあたりは、看護師の事例などでは先行して幾つかの調査・研究はなされていることだと思います。具体的には調べていないですが、そのあたりを上手く参考にしながら、介護の分野においても「ケアの質」を高め、それを一定に保ち続けることのできる体系が確立されればと思います。

 

雑感のわりに非常に時間がかかり、長くなってしまいました。

久しぶりにこうした講演を聞くことができ、非常に面白く勉強になりました。また機会があれば参加してみたいと思います。


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