Lazy-planet

LIFE | yuki ota

あじさい
あじさい

『カタツムリが食べる音』病んで初めて見えるゆっくりとした世界

| 0件のコメント

カタツムリが食べる音

カタツムリが食べる音

『カタツムリが食べる音』(エリザベス・トーヴァ・ベイリー著/高見浩訳)という本を読んだ。

感染症によって、重度の神経障害を負い寝たきりになってしまった著者が、病床で友人から譲り受けたカタツムリを観察することから、本書は始まる。
病気に体の多くの機能を奪われてしまった代わりに、それでも生きる膨大な時間を余らせてしまった著者が、この小さな生き物の様子を眺め、共鳴し、省察することで、本書の奥深い世界が展開され、それに圧倒されに引き込まれてしまった。

わたしはある病気にかかった結果、すべての動きが緩慢になりました。同じ人間仲間の活動のリズムにはついていけなくなり、カタツムリの暮らしのリズムにずっと接近したのです。それはとても心休まることでした。p.5

カタツムリの食べるあの小さな音を聞くうちに、わたしの胸には、同じ時間、同じ場所で、あの子とわたしはともに生きているんだ、という仲間意識がはっきり芽生えた。p.25

病気は人を孤立させる。孤立した人間は見えなくなる。そして見えなくなった人間は忘れられるのだ。でも、カタツムリは……わたしの精神が蒸発するのを防いでくれた。わたしとカタツムリはわたしたちだけの社会を築いてきたのであり、それが孤立を防いでくれた。p.131

あの子はわたしを楽しませ、学ばせてくれた。音もなくすべるように進む姿は見るからに美しく、わたしが暗黒の時間をかいくぐって、人類の世界の向こうにある世界に踏み込む導き手になってくれた。p.156

ちょうど、私が心療内科で「うつ」と診断され、人の生きる時間、生活の時間についていけなくなったとき、本当にこの本に救われた。
私は、仕事の世界でのスピードにはついていけず、違う時間を求めていた。その探し求めていた時間は、カタツムリのそれと、とても近いのかもしれない。

私たちがせわしなく日常生活を生き急いでいるなかでも、カタツムリは、彼の生活の中で、彼のリズムに従って、その時間を生きている。
私たちが住んでいる同じ世界のなかで、そうやって生きている生物もいるのだ。

自分が周りの人たちのペースについていけなくなったり、日々の流れるスピードに疲れてしまったとき、ふと違うペースで生きる生物の存在を思い浮かべてみる。
それはカタツムリでも、クジラでも、あるいはまた雑草でもいいのかもしれない。
そうした存在に救われることもあり、少し心が軽くなるだけでもいい。

この本は、そんなことを教えてくれた。

カタツムリが食べる音


Facebook comments:

コメントを残す

必須欄は * がついています