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LIFE | yuki ota

『思考の取引』書店と書物とそれらに関わる全ての人への愛

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『思考の取引』ジャン・リュック・ナンシー著/西宮かおり訳

書物と書店と、それらに関わる全ての人への愛が感じられる一冊の哲学書。

訳者のあとがきがとても優しい。
哲学的な難しい本書の内容とは対比的な、平易な言葉を選んで、この本の美しさを際立たせている。

著者はまず、本の持つ本質”イデア性”を明らかにする。
一冊の書物は私たちに「読め!」と呼びかける。私たちの意思ではなく、本の呼びかけに対応する対話から読書は始まる。
われわれ読者はあらゆる法の制約をうけることなく読むことができる一方で、その命令はいつまでも反復され、一新される。つまり、読むという行為に終わりはなく、私たちは、「本を読み終える」ことはできないのだという。

そして、本が我々に与えるメッセージ、読むことの定義を踏まえたうえで、それが書店に陳列され、読者の手元までに届く一連の流れを独特の語り口で展開する。

本は、著者がそれを書き、テキストに起こされ、それらが割付、レイアウトされ、書物の形として製本され、そして、書棚や平台に陳列される。
こうした一つ一つの行程は、書物の絶対的な価値を作り上げる。、
これら一連の作業によって、「思考の取引」への入り口は作られ、この取引の場を占めるのが書店である。

書店では、書店主が、物理的に本を選択し、それを並べることで、「読者の読書」を促す立場になることができ、読者は、著者の読者であると同時に、書店主の読者でもある、と著者は述べる。
本の並べ方、置き方、そしてどのような文脈に沿ってそれらが書店に存在しているのか、それを決めるのは、書店まで運ばれてくる行程でその書物に関わった人すべてであり、書店主である。

読者は、パン屋におかれたパンを手に取るように、本から立ち上る香りを敏感に感じ取り、書物を手にする。

書店の香りー書物から立ち上る、何か甘やかな香気のような、食欲を誘う匂いのようなものが察知され、推測され、予感される。

書物が並べられた書店はまさに、「思考の取引」の場であり、あるいはそうでなければならない、と著者は呼びかけているように思える。

哲学的な語り口で難解な本ではあるが、書店愛に満ちた詩のような本であり、また、書店に並べられる本がいつまでも読み続けられる終わりのないものであるように、心から願っているのだと感じられた。

思考の取引――書物と書店と


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