ふと、思い立って、前から行って見たかった古本屋「とほん」さんに行く。
電車を乗り継いで、JR郡山駅まで。
駅を降りると、古い団地が見える、ウチとよく似た同じ規格のハコを並べた作り。変わらなさになにか安心する。
街を見たくて、駅からゆっくり歩く。このあたりは郡山城の城下町として、古い街並みが残り、昔ながらの蔵や木造建築も多い。
それらを眺めたり。ただ、古い民家で育てられている花や野菜を眺めたり。生活のにおいのしない空き家も多い。
古い家は手入れが大変そうだけど、木枠の窓や、厚いガラスブロックの壁など、今の建物にはない魅力がある。
「とほん」さんは、やなぎまち商店街のちょうど端っこのほうにある。
商店街のいろいろな店の軒先に、大きな琺瑯でできた白い鉢が並んでいる。空っぽのものが多いが、水のなかで金魚が泳いでいるのもある。
その「たらい」は、毎月第4土曜日に「ひとたらい市」として、とほんやKcoffee前の金魚電話広場で使われるという。
ここは、金魚の町なんだ。
来るまで知らなかったけど、ここは金魚の日本三大生産地の一つである、という。
確かに、町のいたるところに金魚のモチーフが隠れている。
商店街の途中で、「金魚休憩所」と書かれた一軒家のドアを開ける。ここにもたらいがある。
そこで、商店街のガイドブックをもらった。「やなぎまち商店街くらし事典」。ここのオーナーの若い人が商店街の衰退に危機感を感じて作った、という。
いろんな地方の商店街で、こうした新しいガイドブックは作られている。それは、地域おこし協力隊の人だったり、都会でデザインを磨き、地元に戻ってきた若い人だったり、さまざまな新しい人の活躍と、それを応援する商店街のベテランの協力で成り立つ。
とても丁寧に作られた手書きの味のある冊子だった。
それをもらって、いよいよ「とほん」さんへ。
とても開かれた軒先と、土間。店の外に置かれた古本の棚をじっくり眺めた後に、中へ。
いろんな雑貨もあれば、夏葉社さんをはじめセレクトされた新刊図書も多い。zineやリトルプレスの類いも多い。
とても雑多なものが好きな文学青年好みのセレクトで、僕好みでもある。
「微花(かすか)」という、とても若いフォトグラファーの作ったzineのような小さな花の図鑑と、こないだ芥川賞を受賞した又吉直樹が作詞した「世田谷ピンポンズ」のCDを購入。
ついでにフリーペーパーの「のんびりvol.13」ももらい、店を出た。
出てすぐのところに、脇に金魚の水槽となっている電話ボックスが置かれた、古いガソリンスタンドの広場がある。地元では「金魚電話広場」と呼ばれているらしい。
その奥にKcoffeeさんがある。スタンドでアイスコーヒーを飲んで、少し涼んでみる。夏休みなので、子連れのお客さんも多く、みんな金魚ボックスを見て楽しんでいる。
とほんの店主が教えてくれた、金魚資料館のほうに向かう。こちらのほうへ行くと、水田のように見える金魚の養殖場があちこちに見えるという。
たしかに、水を張った水田のようなものがたくさん見えてきて、その奥に金魚資料館と書かれた建物がある。入場無料。
金魚屋さんに併設されたギャラリーのよう。金魚にまつわる昔からの資料の展示や、珍しい金魚を飼育する水槽が並べられている。
ぐるっと見回して、昔の資料をじっくり眺める。さまざまな年代の「金魚の飼い方」という資料がある。それぞれの時代で飼い方は変わっていくだろうか、それとも受け継がれているのだろうか、読んでみたくなった。
他にも、もらった地図のなかには気になる建物がいっぱいあったけれど、夏の日射しと、資料館までの道のりでかなりバテてしまったので、駅前の喫茶店でナポリタンを食べて帰った。
今度は、もっとじっくり商店街を回りたい。サンドイッチも食べたい。一眼レフも持っていこう。
面白い町だった。