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『保育園義務教育化』具体的には?

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<保育園義務教育化>

古市憲寿さんの『保育園義務教育化』を読みました。

タイトルのインパクトが強く、とても目を引く本なのですが、現状の保育についてやさしく平易な文章で書かれており、保育の問題点や、乳幼児教育の重要性など、できる限りデータに基づいて書かれています。

入門書的な位置づけなので、内容的には、日経DUALや日経Kids+を読まれていたり、日頃育児関連のニュースを敏感にチェックしている方にとっては、ほとんど既知の内容かと思います。

 

もう少し、踏み込んだ内容のものとしては、猪熊弘子さんの「子育て」という政治 少子化なのになぜ待機児童が生まれるのか? (角川SSC新書)という2014年発刊の新書があります。

子育て新制度が発表された直後の本で、制度の内容にも詳しく、また現状の保育制度の課題や財源の問題、など政策面を特に重点的に批判し、「政治」的な観点から、もっと権利を主張すべきという結論を述べています。

猪熊さんの本の冒頭にも、義務教育化に似た素朴な疑問が紹介されています。

「小学校に入れない子どもはいないのに、なぜ保育所に入れない子どもがいるのでしょう?」

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<現状の制度問題>

その答えは、猪熊さんの本のなかに詳しく書かれていますが、要約すると「子どもたちがなんらかの保育を受ける権利」を保障する法律が無いからです。

保育園の設置義務等に関する法令は、児童福祉法で定められていますが、実質その法律には「抜け穴」が多いことを猪熊さんは指摘しています。(下記、猪熊さんの著書出版以後の改正後の文章にて記載します。改正されていても、やはり抜け穴はあります)

児童福祉法第24条には、「市町村は、この法律及び子ども・子育て支援法の定めるところにより、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において~当該児童を保育所において保育しなければならない。」とあります。

しかし、子ども・子育て支援法の制定とともに、第6項が改正され、必ずしも保育所をすべての子どもに入所させなくてもよい、条項として定められています。

「市町村は~やむを得ない事由により同法 に規定する施設型給付費若しくは特例施設型給付費又は~に係る保育(要は認可保育園の保育)を受けることが著しく困難であると認めるときは、次の措置を採ることができる。
一  当該保育を必要とする乳児・幼児を当該市町村の設置する保育所若しくは幼保連携型認定こども園に入所させ、又は当該市町村以外の者の設置する保育所若しくは幼保連携型認定こども園に入所を委託して、保育を行うこと。
二  当該保育を必要とする乳児・幼児に対して当該市町村が行う家庭的保育事業等による保育を行い、又は家庭的保育事業等を行う当該市町村以外の者に当該家庭的保育事業等により保育を行うことを委託すること。

これにより、仮に認可保育園への入所が困難な場合、認定子ども園、家庭的保育事業などへの委託を可能になりましたが、実際にそれらのサービスを受ける利用者は、公的な保育との比較のなかで、本当にそうした選択を行うのか、また同等程度の質で同等程度の金額で保育が受けられるのか、等、親の就労状況や家庭の事情など、子どもとは関係のない事象によって保育格差が生じてしまいます。

<義務教育化のメリット>

仮に義務教育化によって、子どもの保育を受ける権利が保障され、子どもに保育を受けさせる義務が生じる法律が成立した場合、市町村は、希望者の多寡にかかわらず、子どもを受け入れることになり、その受け皿を確保することが必須となります。

その内容についても、少なくとも公立・認可保育園の間での格差はなくなり、私立・認可外・現状の認定こども園・家庭的保育等の保育についても、第三者による管理・監督がより厳しくなり、一定以上の質を求められることとなります。

また、義務教育である以上、それらの保育は、給食費・体操服やお道具箱といった学習用具以外は、無償化されます。

たしかに、義務教育化はこうしてみるとメリットばかりです。

それでも、実現されないのは、一つには猪熊さんの述べる、「子育て世代の政治的影響力の弱さ」。もう一つには、明らかな「財源の不足」にあるのだと思います。

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<財源の可能性>

「政治的な影響力の弱さ」については、単純に子育て世代が労働も家事・育児も行わなければならない、もっとも忙しい世代であり政治的主張に時間がかけられない、といったことにも起因するかと思います。しかし、それ以上に、世代交代が激しい、という点も指摘されます。仮に今0歳の子どものいる保護者が保育園に入れないことを抗議し、政治的な活動を行っても、3年後には保育園の空きが出て、無事に保育園に入れてしまいます。すると、次の世代が自分たちと同じような苦労をしないように、というモチベーションが無ければ、活動は停滞してしまいます。

また、そうした抗議をあげる人を、無理やり保育園に入れてしまえば、もうその人は抗議の声を上げる必要はないのです。このことは猪熊さんの著書でも指摘されています。

そして、財源。

子ども・子育て支援法の制定に伴い、消費税増額分から約7000億円の恒常財源を確保されていますが、社会保障費全体からみると、わずかな金額でしかありません。

既存の枠組みからの拠出は難しく、新たな財源の制度を構築する必要があります。

2006年ごろに、介護保険と同様に「育児保険」制度を設ける、という議論が一時上がりました。

育児保険創設?政府の少子化対策明らかに(2006年05月16日付 All About より)

しかし、この当時の少子化対策はとにかく「てんこ盛り施策」で到底その実現には至りませんでした。

2009年に出された岐路に立つ保育園―社会保障審議会少子化対策特別部会はどんな未来を描いたかでは、当時の「育児保険」制度の構築に向けて、様々な議論が行われた結果、それらが困難であるという結論に至った経緯が示されています。

「保険」という制度を採択する場合、そのリスクが被保険者に等しく平均化あるいば分散化されるものであり、その拠出実績に基づいて給付を得るものとなります。つまり、「保育に欠ける子どもが発生する」リスクは誰にでも起こり得るものであり、すべての人がその保険料を負担し、そのリスクが発生した場合には、その給付を得る権利がある、というものですが、こうした保険の制度には当てはめにくいことは、なんとなく素人でも分かります。

子どもが産めない人、産まない人、結婚しない人、高齢者、すべての人がその負担をすることになるにも関わらず、その給付を受けるのは「リスクが発生する可能性のある被保険者のみ」という非対称の関係が生じます。リスクが普遍的でなく、保険としての同質性が担保されない以上、介護保険のような制度設計は難しい、と判断されたようです。

この点、古市さんの著書では、「子育てを頑張っている人のためなら負担するよ」という独身者の声を上げていますが、全てがすべてそんな人ばかりではないし、そうした優しい国ならば、これほど待機児童の問題は大きくなっていないでしょう。

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また、「育児支援納付金」の企業への義務付けという方法も考えられます。

これは「障害者雇用納付金制度」を育児支援に応用したものです。

障害者雇用納付金とは、中規模以上の企業に、常用雇用者数の2%にあたる人員を障害者雇用として採用することを義務づけたものであり、それに達成しない企業からは、不足人員に応じて納付金を徴収する、といった制度になります。

これは、障害者雇用を促進するために設けられた制度で、一定程度機能しているものと思われます。(実際に罰金を払わない企業もあると思われますが)

また、これと同時に障害者を採用した会社には、助成金が支払われる、4%以上雇用されている場合は、逆に報奨金を与えるなど、雇用を促進する制度も同時に盛り込まれています。

これと同様の制度として、「保育の必要が発生した社員に対し、企業内保育園の入園、在宅勤務、あるいは保育料の補助など、育児と勤務の両立を可能とする施策を講じる」企業には報奨金を、対策を講じていない企業に対しては納付金を徴収する、という制度を設計するのはどうでしょうか。

少なくとも、現状の助成金のみの政策よりは、企業における義務が発生することにより、一定程度の効果は上げられるものと予測されます。

また、こうすることで市町村や国だけの施策ではなくなり、保育園不足の解消のスピードアップも図ることができるのでは、と考えられます。

個人的には、この納付金制度をぜひ、より政策的に効果や制度設計などを検討して頂きたいところです。

<具体的施策の無さ>

最近、いろいろ時間があり、育児・保育に関わる本を読みあさっていますが、具体的な施策について、殆ど書かれていないものが目立ちます。古市さんの本も、義務教育化を謳っているものの、その具体的な内容はあまり触れられていません。ただ、理想としてそうあってほしい、という内容です。

制度的な問題は、これ以外にも多くあるかと思います。保育士不足の解消、保育士の待遇の改善なども、その必要性は増してくるかと思います。

保育の充実は、子どもにとっても親にとっても等しく重要なものです。個人にとって「保育を受ける権利」が保障され、「キャリアの断絶」が無くなることは、社会にとっても乳幼児教育の強化による教育的な効果、育児世代の労働人口の増加による経済効果など、さまざまなメリットも多いと思います。

きっと、霞が関内や、その他高等機関での研究では、より具体的な施策が検討されているかと思いますが、ぜひその優先順位を上げていただき、安保法制なんかより早急な政策実現をお願いしたいところです。

 


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