”文学は、屈しない。ジタバタする。”
アルテリ二号発売を謳う、橙書店の投稿は、こんな書き出しで始まる。
熊本発の文芸誌として、今年の2月に創刊号が発売された『アルテリ』。
熊本にゆかりのある人の手で作られたこの新しい文芸誌を作っているのが橙書店という熊本の本屋さんだ。
いい本屋さんだからこそ、いい人たちが集まっている。だから、いい文芸誌ができる。
創刊号で、書店の店主・田尻久子さんは、「弱者の本ばかり置いているね」と友人に言われたことについて書いている。
”彼らの言葉はひそやかにみえて、その実、力強く、ある時は美しく、そして誇り高い。だから、彼らの声に惹きつけられる。この声を裏切りたくないので、並べて売る。”
そうした決意にも似た言葉で、創刊号を結んでいる。
その後、熊本で大地震が起きた。
『アルテリ』を読んですぐのことだったので、特にだれか知り合いがいるわけでもなかったけれど、気にかかって仕方がなかった。
坂口恭平さんのtwitterをとにかく追った。
瞬時に、迂回路的な解決策にたどり着いて、それを決断してしまう行動力に驚いた。
被害の大小に関わらず、「被災」は大きな影響をそれぞれに与えたにちがいない。
無事で何よりだと思った。そして、次に出される号のことが、また気にかかっていた。
第2号の『アルテリ』はさらに、強みを増していた。
大切な言葉がたくさんあった。
ここにしかない物語があった。
冒頭の言葉に見られる「文学は、屈しない」という意志がにじみ出ていた。
どの著者も、どこか決意じみた言葉を散りばめていた。だから、とても強い。
新井敏紀さんは、星野道夫の世界に触れ、改めて自分の原点を教えてくれている。
平松洋子さんは、野生の力強さを、ソローになぞらえて語っている。
小野由起子さんは、その美しい文体でやさしい風景と路傍の画家を紹介する。
虚無、色即是空、死、別れ、どこか達観したテーマが他にも散見される。
そして、田尻久子さんは、ある老人の戦争の語りから、やはり弱者の想像力を教えてくれている。
“経験しないと分からないことがあっても、経験しない方がいいことがある。例えば、原発事故。例えば、公害病。謂れのない差別を受けること。そして、戦争。どれも人災だ。経験しないために、話を聞き、本を読む。想像する。そして、声をあげる。人間が愚かで弱いことを忘れないために。”
これ以上ない、文学の抵抗の表現だと思う。
「言論も、活動もない生は、世界にとっては、文字通り死である。」と言ったのは、ハンナ・アレントだ。
力強い言葉がたくさんあることに、とても励まされた気分になった。